管理栄養士の奥田千晶です。
さては、コーヒーのカフェインから派生しているな〜
苦味がある茶色い飲みもの同士、ちがいを探り、あなたの不安を解消いたします。
ココア1杯のカフェイン量はどのくらい?
ココア1杯150ml(パウダー5g)のカフェイン量は、日本食品標準成分表2020年版(八訂)によると、
■純ココア:10mg
■インスタントココア:ごく微量
※インスタントココアとは、砂糖やミルクなどが入った味付きのココアです
ちなみにコーヒーは、
■ドリップ1杯150ml:60mg
■インスタント小さじ1(2g):80mg
ドリップコーヒーは淹れ方次第でカフェイン量に変動があるものの、ココアのカフェイン量はコーヒーと比較するとそれほど多くないことがわかります。
カフェインの作用には、メリットもデメリットも広く知られていますね。デメリットが出てくる閾値に関しては、
健常人で1回摂取量200mg以内、1日摂取量500mg以内、激しい運動を行う場合は2時間以上前に1回摂取量が約200mgまでであれば、安全性の問題は生じていない
という論文や、
カフェイン250mg以上を摂取し、神経過敏や紅潮などの症状のうち5つ以上が当てはまる場合を「カフェイン中毒」とする
という精神疾患の診断基準(DSM-5)があったり、
カナダ:健康人で1日400mg、妊娠・授乳中・妊娠予定の女性1日300mg
イギリス:妊娠女性1日200mg
という国の基準があったり、
1回摂取量250mgを超えると、急性カフェインの症状が出ることもあると言えるだろう
と論文を基にした本に書かれています。
デメリットの閾値が最も低いカフェイン1日200mg以内という数値を根拠に、コーヒーは1日3杯までを目安に飲みましょうといわれています。
最も低い閾値を採用し、「目安」だなんて歯切れがよろしくないのは、誰がどんな状態で飲むかがわからないからです。
もう1つ、カフェインにはどうやら感受性があって、感受性には個人差があることがわかっているからなんですよ。
ココアのカフェイン量はココア1杯150ml(パウダー5g)10mg程度ですから、デメリットが出てくるほど摂り過ぎてしまうことは珍しいかもしれませんね。
では、ココアの苦味の正体は何なのでしょう?
ココアの苦味成分はテオブロミン
テオブロミンは、自然界ではほぼカカオにしか含まれていない成分です。
テオブロミンという名前の由来は、カカオの学名Theobroma(テオブロマ)からきていて、Theobroma(テオブロマ)には、神様の食べものという意味があります。
神様の食べものだなんていわれたら、あなたはどう感じますか?
① 神聖なものだから、きっと身体にいいだろう
② 神様しか食べられないように、人間には毒となるようなはたらきがあるかもしれない
テオブロミンは人間にとって聖なる物質なのか、毒なのか・・・
化学の世界からご案内いたします。
テオブロミンの構造式を見てみよう
まずは分子式を確認します。
テオブロミン:C7H8N4O2
カフェイン:C8H10N4O2
なんだかよく似ていますよね。異なるところといえば「CH2」だけです。
次、立体的にしてみましょう!似ているのもそのはず!
カフェインからCH3(メチル基)がとれたものがテオブロミンです。
ようやくわたしは理解しました。
ココアを飲むのが心配だとおっしゃる方の不安とは、カフェインが含まれているとかいないとか、多いとか少ないではなく、カフェインと構造が酷似しているテオブロミンは大丈夫なのかを知りたい。
理系の栄養学部を卒業しました。
食品メーカーで有効成分の単離や同定のお仕事もしておりました。
化学の世界からご案内いたします。
カフェインとテオブロミンの「CH3:メチル基」の差ってなんですか?
構造のちがいはメチル基1つのカフェインとテオブロミン。
このメチル基の有無により、カフェインとテオブロミンには「油への溶けやすさ」と「たんぱく質への結合のしやすさ」に差があります。
そしてこの差がですね、最終的に症状の差を生み出していました。
身体の中でのどんなはたらきをし、どのような症状として感じるのか?
メチル基の性質から考えていきましょう。
メチル基の性質①:水を嫌い、油を好む。
メチル基(CH3)のような炭素と水素からなる有機化合物は、水に溶けにくく油に溶けやすい性質を持っています。
メチル基が1つ多いカフェインはそれだけテオブロミンより脂溶性が高く、別の言いかたをすると、メチル基が1つ少ないテオブロミンは、それだけ水に溶けやすくなります。
人間の身体は細胞でできているけれど、その細胞は細胞膜に包まれており、細胞膜の主成分は脂質です。
脳もまた細胞でできているけれど、①神経細胞やグリア細胞は長くて複雑な突起を持っている ②神経細胞の軸索を囲むミエリン鞘を形成することにより、脳は細胞膜の割合が大きなります。
【神経細胞とミエリン鞘のイメージ図】
複雑にぐにゃぐにゃしているだけ、膜の面積が大きくなる。

細胞膜の割合が大きい脳は、乾燥重量にして約6割が脂質とわかっています。
水と油が混ざりにくいことはご存知ですよね。
より脂溶性の高いカフェインは、テオブロミンと比較すると脳に移行しやすくなる(=テオブロミンはカフェインより脳へ移行しにくい)と考えられます。
メチル基の性質②:たんぱく質と結合しやすくする
カフェインやテオブロミンを構成する六角形をした化合物は芳香環と呼ばれ、芳香環は反応性に乏しい性質を持っています。
安定的な芳香環もメチル基がつくと一変、化学反応しやすくなり、たんぱく質と結合しやすくなります。
メチル基が1つ多いカフェインは、それだけテオブロミンよりたんぱく質と結合しやすく、たんぱく質でできたアデノシン受容体と結合しやすくなります。
カフェインとテオブロミンのたんぱく質の結合のしやすさをイメージすると、こんな感じ。
トマトの手がメチル基で、きゅうりがアデノシン受容体です。
メチル基1つ多いカフェインは、それだけアデノシン受容体と結合する機会がある。メチル基1つ少ないテオブロミンは、アデノシン受容体と結合する機会が少ない。
イメージするとそんな感じ。
メチル基1つのちがいは、不安や不眠の差を生む。
本来であれば、アデノシン受容体はアデノシンの受け皿となり、アデノシンはアデノシン受容体と結合することでアデノシンとして機能しているわけですが、
体内にカフェインがあると、アデノシン受容体にカフェインが結合してしまい、アデノシンは機能を失います。
例えば、腎臓にあるアデノシン受容体にアデノシンがつくと血管収縮が起こります。
でも、カフェインが結合するとアデノシンが機能せず、血管拡張が起こります。
血管が拡張すると血流が増加しますね。
尿は腎臓で血液をろ過してつくられるため、腎臓での血流量が増えると尿も増えます。これがカフェインの利尿作用というわけです。
身体の中で、アデノシンがカフェインに椅子取りゲームで負けたことのお知らせが利尿作用、とイメージしてもらうとわかりやすいですかね。
テオブロミンにも利尿作用の報告があります。メチル基を持っているので、アデノシン受容体への結合性がゼロではないのでしょう。
脳ではどうなる?
脳では、アデノシン受容体はドパミン受容体と合体した形で存在し、興奮や覚醒・快感や不安といった情動に関わっています。
アデノシンがつくと、興奮や覚醒・快感や不安は抑制するように機能します。でも、ここにカフェインが結合すると抑制の機能を失い、興奮や覚醒・快感や不安が起こります。
カフェインはほどほどであれば眠気スッキリとかリラックス効果としてはたらくけれど、過剰摂取すると睡眠の質が低下したり不安が強まるのは有名ですね。
「抑制を抑制しすぎる」ところにあるのでしょう。
テオブロミンの中枢神経へのはたらきとして確認できたものは、リラックス効果までで止まっています。
なぜでしょうね?
カフェインほど脂溶性が高くないから脳に移行しづらいのでしょうかね?
アデノシン受容体に結合はするけど、さほど拮抗しないんでしょうかね?
Despite mainly acting as adenosine antagonist, theobromine may have actions that are not mediated by the blockade of these receptors.
テオブロミンはアデノシン受容体とは関係のない、別のはたらきがある可能性があるとのこと。
どんなはたらきがあるんでしょうね〜。
メチル基1つのちがいなのに、身体の中で全く別の動きをしているのかと想像すると、ワクワクしますね!
テオブロミンは人間にとって聖なる物質なのか、毒なのか?
不眠だとか不安感を強めるだとか、そこまでビビるようなものではないと結論づけたいと思います。
カフェインだって、コーヒー3杯くらいなら毒ではないですけども。
・その3杯が無理ですねん
・やめられませんねん
・止まりませんねん
って思いました? まあまあ、まあまあ。
ホットココアでも飲みつつ、
・コーヒーがやめられないのはなぜだろう?
・どんなときにコーヒーを飲んでいるだろう?
自己観察してみると、案外あっさりやめられるかもですよ。
どんなホットココアを飲みましょかね?
安心だからとガボガボ飲んで牛乳とか砂糖をたくさんとると、太っちゃうんじゃないかって心配ですよね?
管理栄養士がよく飲むホットココアレシピ
甘みはシナモンとはちみつで。豆乳ホットココア
牛乳だともったりしがちなホットココア。コーヒーに豆乳は水っぽくて苦手なのですが、ココアだと飲んだ後の胃がラクだな〜と感じます。
ダイエット中は、香りを味方につけましょう。
嗅覚で最初に満足していると、味覚のパンチが弱くても気づきません。
甘みには香りに深みがあるはちみつを使い、仕上げにシナモンをふりかけると、はちみつの量を減らせますよ。はちみつが苦手なときはシナモン+砂糖でもOK!
分量はお好みでどうぞ。
シナモンをチョチョっとふりかけると、甘味料をそんなにたくさん使わなくてもおいしいやん!ってなると思います。
ラム酒で変化球!ホットラム酒ココア
いつものホットココアに少しのラム酒を加えるだけ!
チョコレートでいうウイスキーボンボンのような、甘くてホッとするけど、強めの刺激を味わえます。
刺激が強いので・・・ガボガボまではいりません。
酒好きさんにおすすめです。
おまけ:パウチ型のはちみつに感激した話
そう毎日は使わないはちみつ。使おうと思ったら白い結晶になっていて、湯煎せな!な事態に見舞われることも珍しくはないですね。
かた〜い容器だと湯煎に時間がかかるし、きっちり溶けてくれない。
パウチなら湯煎も時短になり、きっちり溶けてくれます。
たすかる。
参考文献
本記事では、文献4本、書籍1冊を参考にしました。
・メチル基の性質解説1本
・脳の成分解説1本
・カフェインとテオブロミンの作用2本
・カフェインの作用機序1冊
論文や論文に基づく書籍は探すのもたいへんですよね。探すことに時間や労力をかけるより、知識を得ることに集中したいですよね。
ご自身で参考文献を読みたい方、急遽メディア出演することになったときなどに、探す時間と労力削減のお手伝いになればうれしいです。
化学の世界はおもしろいですね。
それではごきげんよう。